夏の本番、水遊びの季節がやってきました。橋から川に飛び込むのはスリル満点で、飛び込み動画もよく見かけます。楽しそうに何度も飛び込む様子が映し出されていますが、同時に悲しいことに死亡事故のニュースも耳にします。なぜ橋からの飛び込みが命を危険にさらすのでしょうか。
水難事故 死亡事故の例
この事故を取り上げた他の記事では、「飛び込んだ後、1人が浮かび上がってこなかった」「橋から水面までは約18メートルあった」といった詳細が報じられています(神奈川新聞)。
他にも痛ましい事故が発生しています。2019年9月、高知県の四万十川では、大学生2人が橋から川に飛び込み、女子大生が溺れてしまい、彼女を助けようと飛び込んだ男子学生も溺れてしまいました。2人は深い川底で発見されました。
毎年繰り返される、川への飛び込みによる死亡事故。これまでの調査によると、一連の事故には共通点があることが分かってきました。ひとつは、友人たちと一緒に飛び込んで遊んでいたこと、もうひとつは飛び込んだ後に水面に顔を出さなかったことです。これらの共通点を詳しく調べると、隠れた危険が明らかになりました。それは「偶然の一度の失敗」が重大な事故につながるということです。どういうことでしょうか。
友人らと川に飛び込んでいた
川での水難事故では、かなり慣れている、つまり成功体験を積んでいる人が、まず何かしらの挑戦をする傾向があります。今回の題材である橋からの飛び込みがその一例です。友人同士で遊びに来ていると、最初に飛び込んだ人の動きを真似して挑戦する人も現れます。目の前で数人の友人が川に飛び込み、何事もなく岸に泳いで戻ってくると、それを見ていた人も疑似的な成功体験を感じるようになります。すると、恐る恐る自分も飛び込んでみて「できた」となり、リアルな成功体験が形成されていくのです。
このようにして何度か成功体験を積んでいくうちに、命を落とす瞬間が訪れることがあります。それは、「叫んで周囲にアピールした時」です。「いくぞ」「愛しているよ」「気持ちいい」など、最初は無言で飛び込んでいた人も、慣れてくると声を出して飛び込むようになります。
では、声を出して飛び込むと何が起こるのでしょうか?
叫びながら高いところから水に飛び込むと、水中での潜る深さが増します。これは物理的に説明できます。人間の体積比重は、肺に空気をいっぱい吸っていると約0.98で、この状態では真水に浮きます。しかし、声を出して空気を肺から出すと、体積比重が約1.03に増え、真水に沈んでしまいます。つまり、声を出さなければ飛び込み後にすぐに浮き上がれるのに、声を出してしまうと沈んでしまうのです。
本当に怖いのは、根拠のない成功体験です。友人が成功したから、自分も成功したからといって、「次の飛び込みも大丈夫」とは限りません。ここに隠れた落とし穴があるのです。
水面上に顔を出さなかった
飛び込んだ後、深さ3.8mのプールの底に達したとすれば、それ以上潜ることはありません。もしこれが5mの深さであれば、当然その深さまで潜ることになります。
飛び込んで命を落とす人が浮き上がってこないのは、途中で気絶してしまい、自力で浮上できなかったためです。では、なぜ気絶してしまうのでしょうか?
第一の原因は、深くまで潜ったことです。要するに、水面に顔を出すまで呼吸が持たなかったのです。飛び込む時に叫ぶと、肺の中の空気が減ります。その状態で水底から浮上するのに30秒かかるとすれば、普通の人は呼吸が持たないでしょう。さらに、川の底では水が濁っているため、水面の方向が分かりにくくなります。加えて、上に行くほど流れが速くなり、垂直に浮上することが難しくなります。つまり、浮上に時間がかかるのです。
こうして息が持たなくなり、最後の呼吸を水中で試みると、そのまま窒息して気絶してしまいます。肺の中に空気がほとんど残らないため自然に浮上することができず、川底で発見されることになるのです。
ではどうすれば水難事故は防げるのか
川に飛び込むのは避けましょう。また、泳ぐことも控えるべきです。しかし、もし勢いで飛び込んでしまい「しまった」と思った場合は、クリオネのように羽ばたいて水面に出てください。水面に出たら背浮きになって呼吸を確保しましょう。最低限、脱げにくい運動靴やかかとでしっかり固定できるサンダルを履くように心掛けてください。
また、救命胴衣を着て飛び込むと、高さによっては大けがの原因となることがあります。救命胴衣は緊急時の救命具として設計されており、泳ぐための工業製品ではありません。
編集後記
これから学生達の夏休みが始まりますが、楽しい思い出のままでなるように節度をもって遊びたいですね。
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