「境界知能」という用語が、特定のグループを不当にラベル付けするために使われることが問題となっています。この言葉は、知的機能が平均と認知障害の中間に位置する、IQが70から85未満の範囲を示す場合に用いられます。
多くの場合、このレッテルは批判的な文脈で使用されており、特定の政党の支持者や、不適切なコメントをオンラインで投稿する人々、さらには公共の場で不適切な行動をする人々に対して適用されています。例えば、
ある政党の支持者は“IQ85以下の境界知能”
クソリプ送ってくるヤツもほとんど境界知能
卓上トッピングにイタズラするヤツも境界知能
といった表現が見られます。このようなカテゴライズは、詐欺にだまされやすい人や、仕事でミスを繰り返す部下にまで及んでおり、あらゆる状況での断定的な発言が懸念されています。
境界知能のNさんの場合
20代のフリーター、Nさんは6年前に自分が境界知能であることを知った。
Nさん
IQの検査をやり、平均値は大体100だが、私の場合は81だった。やっぱり能力低いんだなって多少へこんだ
と振り返っています。
さらに、カウンセリングを通じて、Nさんは会話や言葉の理解に苦労があることが明らかになりました。
Nさん
言葉の意味を知らなさすぎたり、コミュニケーションがうまくとれなかったり、指示通りに動けなかったり、物覚えが悪かったりしたため、周りからも『あいつなんかバカだね』みたいな扱いというか、仲良くしたくないと思われてしまった。日常生活を送る分には問題ないが、やっぱり生きづらい
Nさんが苦手としていることには、人間関係、コミュニケーション、将来の計画を立てる能力、感情管理、そして勉強が含まれます。
Nさん
学生時代、人付き合いが全然うまくいかなくて、問題ばかり起こしていた。先生からも私が悪者扱いされていた
職場や社会に出た時に周りとうまくやっていけないとか、そういったところでつまずいてしまう
とNさんは述べています。
Nさんが自身のIQを診断することになったのは、
Nさん
6年前に会社をクビになって、改めて自分はどういう人間なのかを知りたくなった
こと。解雇された理由については、
Nさん
就労移行の支援員をやっていたが、社会人としてあってはならないことをしてしまった。例えば感情のコントロールができなかったり、話が噛み合わなかったり、物覚えが悪かったり。上司から“社会人としてありえないです。あなたがいたら迷惑です”と言われて、1年でクビになってしまった
と語っています。
しかし、コミュニケーションを除けば、
Nさん
コミュニケーション以外の、例えば掃除や家の片付けは問題なくやっていける
とも述べています。
境界知能であることが判明したことについて、Nさんは肯定的な見解を持っています。
Nさん
私はただの発達障害ではないと思っていた。発達障害は能力が高い人もいるが、私は言葉の意味を知らなすぎたり、人よりも動作が遅かったりする。検査をして境界知能という言葉を知れて良かった
と感じています。
境界知能の特徴
境界知能は、特に「注意」「記憶」「言語理解」「知覚」「推論・判断」の5つの領域における認知機能の差によって特徴づけられます。これにより、学習に対する意欲が低いと誤解されることや、状況判断が苦手で人間関係において問題を引き起こすことがあります。
昭和大学の発達障害医療研究所を率いる太田晴久所長は、
太田晴久氏
境界知能は病名ではない
と述べています。
太田晴久氏
知的障害のカテゴリーに当てはまらないけれども、“困りごと”を抱えている人たち。コミュニケーションに限らず、作業能力など広く浅く苦手というのが特徴としてはある。気づかれにくいため、学生時代に大きな問題がなくても、仕事で複雑な作業をすることになった途端に顕在化することがある。本人も問題があると感じられず、無理して鬱状態になって、受診して初めて境界知能だと分かるのがよくあるパターンだ
と説明しています。
また、発達障害とは異なるとしつつも、
太田晴久氏
発達障害を疑って受診し、IQ検査をすると境界知能もあったという併存するケースはよくある
というケースが少なくないとも付け加えました。
境界知能を評価するためには、「WAIS-IV」と呼ばれる知能検査を含む10の基本テストを実施し、それにより全検査IQ、言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標の5つの指標を得る方法と、心理学者や専門の医師による詳細な問診が行われます。
太田所長によれば、
太田晴久氏
知的障害はIQを元に、うまくいかないこと、どのくらい社会に適応できているかということから、専門家が総合的に判断する。しかし、境界知能に診断基準はない。知的障害に当てはまらないが、IQ値がぎりぎり達しない人たちを境界知能と表現する
と語っています。
境界知能=低学歴のレッテル貼りは危険
太田所長は、「境界知能」という用語は、支援を必要としているが受けられずに困っている人たちを助ける目的で用いられるべきだと考えています。しかし、この言葉が低学歴などの否定的なラベルとして使われることには反対し、そのような使用法が検査や支援へのアクセスを困難にすると懸念しています。
太田晴久氏
ネットを見る限り非常に侮蔑的に、他人を批判するための言葉として使われてしまっている。IQ検査をして“あなたは境界知能だ”と伝えるのは非常に気を遣うし、言われた方もショックを受ける。そういう中で、患者さんや当事者から離れた場所でワードだけが使われてしまうと、偏見に繋がって必要な検査ができなかったり、本人を傷つけてしまったりする
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、
ネットの人たちは、いかに相手が気持ち悪くなるかという罵倒用語を探している。今までは知的障害者やアスペと呼んだりしていたところに、境界知能という言葉が出てきて、これ幸いと使う層が一定数いる
と述べています。
この状況について、太田所長は
太田晴久氏
境界知能で困っている人とちゃんと接したことがないのだと思う。外来に来ている人たちは非常に苦しんで悩んで過ごしている。その人を罵倒する気持ちには通常ならないだろう。頭の中のワードと実態がずれているのが現状だと思う
と指摘しています。
境界知能の特徴と診断方法をチャットGPTさんに聞いてみた
境界知能の特徴や診断方法を教えてください。
境界知能は、知的機能が平均と認知障害の間に位置する状態を指し、一般的に知能指数(IQ)が70から85未満の範囲にあるとされます。この状態は、知的障害とは異なり、日常生活を送る上での著しい支障はないものの、学業、仕事、社会生活での若干の困難が見られることが特徴です。
特徴
境界知能の主な特徴は以下の通りです:
- 注意力の問題:集中力が続かない、簡単に気が散る。
- 記憶力の問題:新しい情報の記憶や、既存の情報の呼び出しに苦労する。
- 言語理解の難しさ:複雑な指示や抽象的な概念の理解が難しい。
- 知覚と推理の問題:物事を論理的に考えたり、問題解決のための情報を統合するのが苦手。
- 処理速度の遅さ:思考やタスクの処理が遅く、時間がかかる。
診断方法
境界知能の診断には、以下の2つの主要な手法が用いられます:
- 知能検査(WAIS-IVなど):この検査は、全検査IQだけでなく、言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標の各サブスコアを算出します。10個の基本検査を通じて、これら5つの結果を得ることで、個人の認知能力の全体像を評価します。
- 専門医による問診:心理士や専門医が行う詳細な問診では、個人の日常生活での困りごとや社会生活での適応能力、教育や職業での経験など、様々な面から情報を集めて評価します。
診断は、これらの検査結果と問診に基づいて、専門家による総合的な判断により行われます。境界知能自体は病名ではなく、むしろ個人の特性の一つとして捉え、適切な支援や対応策を講じるための基準となります。
専門家の反応は?
IQは相対評価でありほぼ正規分布となるため14%程度の人が世間で言ういわゆる「境界知能」という範囲に分布します。ただ、記事にもあるように知能指数は言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度などの指標からなり、全検査IQが高くてもその中に大きなバラつきがある方もいます。また知能指数が高いからといって日常生活における全ての能力が秀でているわけでもありません。検査の仕方、その時の調子によって数値にばらつきも出ますのでIQが69の人間が必ずしも70の人よりも常に低いかと言えば当然そうではありません。何より自覚をしていない人が多いですが、約50%の人間はIQが100以下です。
診断や支援に用いるために便宜的に知的障害との境界線を引いただけのものであり、IQが幾つであれ困りごとはそれぞれです。
これらを理解していただき「境界知能」という言葉を侮蔑的に使う人が少しでも減れば良いなと思います。
知能障害はIQで分類されますが、もっとも社会的な理解が支援が届きづらいのは重度知能障害よりも境界知能の方々です。外見や応答は一見問題がないため、能力の困難を本人の努力不足やわがままであると家族からも思われます。社会的にも騙されたり、犯罪被害にあうことも多く、うつや依存症の背景にこの問題が隠れていることも多くあります。レッテルや差別はもちろんよくないことですが、「一億総活躍社会」といったコピーに端的にあらわれるように、妙に統一感や公平感を強調して格差を見えなくする社会の在り方が気になります。貧困もそうですが、人の能力には差があることは当然で、それを認めて長所をいかすような社会にしなければいけないのに、と思います。
ネットの反応は?
頭いいやつもいれば、頭が良くない人もいる。
これって普通だし、個性だと思う。
ただ、仕事にしても合う合わないがある。
接客業は出来ないけど、事務職は得意だったり、単純作業は得意だったりするし、興味関心があることは覚えられるけど、興味がないことは全く覚えられない等々
なんでもかんでも支援する必要もないけど、自分を理解し、自分に合う仕事を見つけることが重要だと思う。
ADHDの知り合いがいる。空気読めないし3歩歩いたら注意されたことも忘れてしまう。話も結論まで長いし何が言いたいか分からない事も多々。 だが耳が良い。彼は潜水艦に乗って音を聞いているらしいがその分野では天才らしい。かなり出世していた。適正に合えば活躍できる場所って言うのはある。まぁ適正と言えば一般の人にも当てはまるから誰にでも活躍するチャンスはあるって事だな。
編集後記
自分がこういう人間だと分かるだけでも生きづらさって少しはなくなる気がしますね。それは境界知能の方でなくても自分はどんな人間か知る必要はあると思う。
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