TBSの報道によると、現在、世界中でデータから自動的にテキストや画像を生成する「生成AI」技術が急速に発展しています。この技術を用いて、中国では故人を「復活」させる新しいビジネスが生まれ、多くの議論を引き起こしています。
具体的には、故人の画像や声などを生成AIに学習させ、亡くなった人と会話ができるようにするサービスです。これは中国に限らず、アメリカをはじめとする他国でも同様のサービスが開始されており、物議を醸しています。
TBSが取り上げた中国の事例では、亡くなった高齢者や早世した子どもの動画を作成し、家族に提供するAIサービスがあります。このようなサービスが、亡くなった家族とのやり取りを通じて悲しみを癒やす手助けになると理解されています。
このサービスを提供しているのは「スーパーブレイン」という企業で、数ヶ月前から国外メディアにも報じられています。フランスのテレビ局も2023年12月にこのデジタルクローン技術に焦点を当てて報道しており、全世界での注目度は非常に高く、新たなビジネスチャンスとしても期待されています。
亡くなった創業者の「スピーチ」を公開した例も
AI動画技術に関する興味深い事例があります。2024年3月には、中国のAI企業であるセンスタイム(商湯集団)が年次総会を開催しました。この総会でのスピーチは、共同創業者の湯暁鴎氏によるものでしたが、湯氏は実際には前年の12月に亡くなっており、スピーチは生成AIを利用した湯氏のデジタルクローンによって行われました。
このような死者と会話が可能なサービスやデジタルクローンを作成する技術は、現在の生成AIによって非常に簡単に実現可能です。筆者自身も最近、オンラインの詐欺広告に関する取材中に、AIを使って自身の顔を別の人物の顔に変えてみたところ、簡単にできたと述べています。今では、顔を変える生成AIサービスや、音声サンプルから人の声を再現するAIサービスがインターネット上で容易に見つけられます。
これらのデジタルクローン技術は「ディープフェイク」という用語でも広く知られています。ディープフェイク技術は、2017年に米国で初めて問題視され、当時から多くの注目を集めています。始まりは「ディープフェイク」というネームを持つユーザーがAIを使用して有名人の顔を不適切な動画に埋め込み、人気のオンライン掲示板で公開したことで大きな論争を引き起こしました。
その後、AIによる顔の入れ替え動画は一般に「ディープフェイク」と呼ばれるようになり、動画作成アプリも登場しました。これにより一般ユーザーも簡単に動画を生成できるようになり、そのクオリティは年々向上しています。
世界各国で生まれる「死者をAIで復活」サービス
「亡くなった人を復活」させるサービスは、中国から発信されたものの、すでにアメリカでも導入されています。
カリフォルニア州に拠点を置くストーリーファイル社は、故人と対話ができるサービスを499ドルで提供しており、このサービスは多くの喪失感を抱える人々にとって心の支えとなっていると報じられています。
アメリカでは他にも同様の企業が立ち上がっており、ある企業は亡くなった女性の葬儀で、AIが復活させたその人との「ビデオ通話」を実現させたことがあります。これは感情的な面で複雑な気持ちを呼び起こすサービスと言えるでしょう。
また、別の企業は、生前の数時間に及ぶインタビューを記録し、その人が亡くなった後に、故人の話し方や口調を再現して対話を可能にするサービスを展開しています。インタビューの内容が対話に反映されるため、深い会話が展開される可能性があります。
アマゾンが提供する「アレクサ」では、亡くなった祖母の声で本を読み聞かせるサービスなどもあります。このようなサービスは今後、世界中で増えることが予想されます。
アメリカ以外では、韓国においても、死者をAIで復活させるスタートアップが現れており、2020年に病気で亡くなった6歳の女の子をAIで復活させて母親との再会を実現したドキュメンタリーが話題になりました。台湾では、ある有名なミュージシャンが、若くして亡くなった娘をAIで復活させたニュースが最近報じられました。
これらのサービスは確かに多くの人々を救っていますが、同時に様々な議論を引き起こしています。
精神に「害を及ぼす」可能性も指摘
TBSの報道によると、中国で「亡くなった人を復活させる」サービスを提供する中国人男性は、
私は今、人々を救っていると感じます。人々に精神的な安らぎをもたらしているのです。私の夢は、普通の人がデジタルの力で『永遠に死なない』ことを実現することです
と語っています。一方で、この考え方に疑問を投げかける声も存在します。
その理由として、亡くなった人といつでも通常通りに会話ができる状態になることが、精神的健康に悪影響を及ぼす可能性があるからです。通常、人は愛する人を失った悲しみを受け入れ、それを乗り越えて生活を前に進めていくものです。一部の報道では、「忘れるという行為は健康的である」とも主張されています。
アメリカでは、この種のサービスは心理学の研究分野でも注目されており、コロラド大学のジェッド・R・ブルーベイカー教授が主導する研究チームは、これらのAIを「生成ゴースト」と呼んでいます。これらは死者が生前に残したコンテンツのみならず、新たなコンテンツを生成する能力を持っています。
この研究によれば、生成ゴーストとの継続的な対話は社会的な混乱を引き起こす可能性があり、論文を引用すると、「例えば、生成ゴーストの広範な採用は、労働市場、対人関係、宗教組織など、現代社会の基礎を根本的に変える可能性があります」という。
また、故人の情報を学習して生成する際には倫理的な問題が伴います。プライバシーの問題や、故人が自らの「復活」を望んでいたかどうかの問題も含まれます。これらの議論は今後もさらに活発になることでしょう。
さらに、中国ではディープフェイク技術を使用して不正に有名人を復活させる事例も報告されており、著作権や肖像権の侵害が批判の的となっています。
このような新技術の導入は、ビジネスの機会をもたらす一方で、深く考えるべき課題も伴います。特に人の死に関わるサービスは、慎重な議論を経て展開されるべきでしょう。
死者を生成AIで復活させることに関しての感想をチャットGPTさんに聞いてみた
こういった死者を生成AIで復活させる行為に関してチャットGPTさんは倫理的にどう思いますか?
死者を生成AIで復活させる行為については、多くの倫理的な問題が考えられます。この技術は一部の人々にとっては慰めや癒しを提供する可能性がありますが、同時に様々なリスクや問題点も伴います。
- プライバシーと同意:亡くなった人のデジタル表現を作成する際、その人の同意を直接得ることは不可能です。故人の意志やプライバシーをどのように尊重するかは重要な問題です。
- 現実との区別:デジタルクローンとの対話が本物の人間関係を置き換え、個人の現実認識に混乱を招く可能性があります。これは特に悲しみのプロセスに影響を与え、適切な喪失の処理を妨げるかもしれません。
- 感情的な影響:故人との「再会」が家族や友人に与える心理的な影響は計り知れません。これがポジティブな効果をもたらす場合もあれば、悲しみを長引かせることも考えられます。
- 倫理的、法的な規制の必要性:この技術の使用は適切なガイドラインと規制が求められる分野です。利用者の感情や権利を保護するための明確な法的枠組みの整備が必要です。
このような技術が提供する慰安とリスクを考え合わせると、それをどう利用するかは慎重に検討する必要があります。社会的な合意形成や倫理的議論を進めることが不可欠です。
専門家の反応は?
2019年のNHKの年末歌番組では、大御所の歌手がAIによって復活し、本人そっくりのCGが新曲を歌い、セリフを語ったことで話題になった。
whateber社の調査(2020年)によると、「死後、AIやCGを活用して自分を復活させたいか」という問いに対しては、63.2%の人がNOと答えている。さらに「死後、AIやCGを活用して亡くなっている人を復活させたいか」という問いに対しては、76.7%の人がNOと答えるなど、AIで故人を復活されることに否定的な意見は多い。 しかし技術の進化は日進月歩、この意見も5年後、10年後はどのように捉えられるのだろうか、考え方も変わってくるのか興味深い。
実際問題として愛する妻や子供、あるいは失った家族が「蘇った」場合、彼らと再び別れることは出来るのでしょうか。従来の霊媒等の事例を見ても、クローンを失うことには凄まじい精神的苦痛が伴うことが予想され、サービス停止で精神のバランスを崩したり、クローンと会うためにはいくらでも金を払うという人が出ても不思議ではありません。非常に邪悪な技術の使い方という気がします。
ネットの反応は?
利用する方の気持ちはわからなくもないですが、あくまでもAIであって亡くなったご本人ではありません。短期的に気持ちの整理がつくまで使うのならまだしも、使い続けるのは亡霊に取り憑かれているようなものです。
人はいつか死ぬ、当たり前のことをちゃんと受け止めなければ、やはりもう亡くなって、この世にはいない事に気がついてしまった時の喪失感が大きすぎるのではないかと心配になります。
サービスを提供する企業は、利用者にそういうことも予めよく伝えた上で、利用してもらうことが最低限の責務だと思います。
気持ちはわかる。俺だって亡くなった妻や娘と会えるなら、これ以上に嬉しいことはない。でもそれは学習したAIであって妻でもなければ娘でもない。親しい人を亡くして、時間がかかっても前向きになれる人もいれば、寂しさに耐えきれない人もいるだろう。強さ弱さは人それぞれ。それ自体は良くも悪くもない人間らしさだと思う。寂しさからAIで作り出したものにすがりつきたくなる気持ちはわかる。でもそれはただの幻影。傷口がいつまで治ることなく、逆に傷口が膿んで痛みを長引かせるだけだと思う。事故の時のシーンが何度も何度もフラッシュバックして、自分の叫び声で飛び起きる。寝るのが怖くなって目は落ち込み目の下にはクマができて、さながらゾンビみたいな顔だったらしい。仲間に助けられて今は妻と娘から一字ずつもらい和菓子屋をしてる。『女々しい』と笑う奴もいた。でもどう言われても、俺は胸を張って『頑張ったよ』『精一杯したよ』と言いたい
編集後記
今は否定的な意見が多くても今後、生成AIがさらに一般的なものになり社会の価値観が変わってくるとまた違った価値観が出てくるんでしょうね。
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